研究内容
1. 活性酸素とASK1
ASK1は通常、安全装置であるチオレドキシン(Trx)と複合体を形成して不活性化状態にあります。しかし、活性酸素がこの安全装置を解除し、起爆装置であるTRAFとの複合体形成が促進されると、ASK1は強く活性化されます(野口グループ2006参照)(EMBO J., 17, 2596-2606 (1998), J. Biol. Chem., 280, 37033-37040 (2005))。このモデルは、活性酸素という物理化学的なシグナルをリン酸化シグナルという細胞内シグナル伝達系に変換する機構として極めて興味深い発見であると考えています。というのも、活性酸素や紫外線などの生体に有害なストレスを細胞が感知する機構についてはその多くがいまだ解明されていないからです。
そこで、私たちはTrx-ASK1複合体が活性酸素を感知する機構についてさらに詳細な検討をしています。これまで、どのようにしてTrxやTRAFがそれぞれ安全装置・起爆装置として機能しているのかわかりませんでしたが、藤野が中心となって解析した結果、その一端が明らかとなりました。まず、ASK1のある領域の構造変化がASK1の活性化に重要であることが新たにわかりました。そしてその領域を挟み込むようにTrxやTRAFが結合し、その領域の構造変化を制御していることがわかりました(Fujino G, et,. al: 現在査読中)。
今年度、藤野は新人の山内とコンビを結成し、この領域の構造変化についてさらなる詳細の解析に着手しました。この詳細が明らかになれば、将来的にASK1の活性調節が人為的にできるようになるかもしれません。これはASK1の過剰な活性化によって引き起こされる強い炎症や細胞死を人為的に調節できることを意味し、ASK1が創薬のターゲットとなる可能性を含んでいます(ASK1の疾患への関わりはJ. Biochem. Mol. Biol., (review article), 40, 1-6 (2007).を参照)。
2.ASK1シグナルソーム
ASK1は細胞内で2,000kDaにも達する巨大なシグナルソーム(細胞内情報伝達複合体)を形成しています。しかし、どのような構成因子によって巨大な複合体が形成されているのか、ということに関してはごくごく断片的な情報しかありません。私はかねてからシグナルソームを何とか丸ごと精製したいと考えていました。またそのためには体力のある人手が必要だと感じていました。そんな矢先に本間が加入してきたので、私(野口)とともに念願のASK1シグナルソームの精製に着手することができました。現在のところ知的好奇心100%のプロジェクトかもしれませんが、構成因子が解明されることでASK1に関する新たな知見が得られるものと期待しています。 |
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3.ABP300とABP20
ASK1と活性酸素依存的に結合するのはTRAFだけではありません。その他にABP300とABP20(ともに仮名)も結合することが分かっています。しかし、その役割はよくわかっていません。これらの因子とASK1の関わりを明らかにすることはASK1活性化機構の解明を目標にする我々にとって急務とされています。昨年度に引き続き永井が解析しているABP300はデータが徐々に蓄積しており、ASK1にとって重要な翻訳後修飾の意義が明らかになるものと期待されています。永井は早く論文に、とハッパをかけられている状態です。
一方のABP20はABP300と同様にプロテオミクス手法によって同定された活性酸素種依存的ASK1結合因子です。この解析は昨年度から寺田が一手に引き受けて解析をしております。ABP20に関してはまだまだ多くの実験が必要なのですが、クリアなデータも出てきており、将来有望なプロジェクトです。一刻も早く本名が出せることを切に願っています。
4.発毛とASK1
創傷治癒過程における発毛誘導はASK1ノックアウトマウスで遅延します。(野口グループ2006参照)。この発毛誘導には、活性化されたマクロファージが重要な役割をしているということがわかってきました。しかしながら、活性化したマクロファージがどのように発毛誘導するのかわかっていません。村上は昨年度に引き続き、その機構あるいは直接発毛を誘導する因子についての解析を試みています。
5.小胞体ストレスとASK1
ASK1は活性酸素のみならず小胞体ストレスによっても強く活性化されます。しかしながら、その機構はわからないことが多く残っています。このプロジェクトは福富が任されています。福富の頑張りによって今後大きなトピックスになるものと思われます。
6.自然免疫応答とASK1
細菌やウイルス感染初期の迅速な生体防御機構である自然免疫応答において、ASK1は炎症性サイトカインの誘導を介して生体防御に貢献していることが明らかとなっております。一方で、積極的にアポトーシスを誘導する局面があることもわかってきました。私と福富でこの機構の解明に取り組んできました(論文作成中)。さらにその生理的意義についても検討していこうと考えています。 |